Exchange Residency Programエクスチェンジ・レジデンシー・プログラム

エクスチェンジ・レジデンシー・プログラムでは、国内のアーティストへの支援強化、また国内外のアーティストやキュレーター同士の芸術文化交流の促進を目的に、海外のAIRプログラム運営団体と連携し、アーティスト・キュレーターを派遣/招聘します。2017年に開始した本プロジェクトは、これまでに台湾の國立台北藝術大學 關渡美術館やスコットランドのホスピタルフィールド、韓国のセマ・ナンジレジデンシーとの協働により、国内外のアーティスト、キュレーターのリサーチやプロジェクトを支援することで、両国間での創造的な議論を活性化してきました。

         

2023年度プログラム

2023年度は韓国、ソウルのセマ・ナンジレジデンシーとアーカスプロジェクトが協働し、日韓のアーティストを派遣/招聘します。

アーティスト招聘期間

セマ・ナンジレジデンシー:
2023年9月15日-11月14日(61日間)
アーカスプロジェクト:
2023年6月9日 – 8月9日(62日間)

連携団体 セマ・ナンジレジデンシー(韓国)

撮影:Kim YongKwan

セマ・ナンジレジデンシーは、2006年にソウル・蘭芝島の浸出水処理施設を改修して開設された。国際交流の活性化を目的としたさまざまなプログラムを実施し、アーティストには整った環境で制作に集中できるよう、スタジオを提供している。ソウル中心部に位置し、25のスタジオ、ラボ、ギャラリー、屋外ワークショップがあり、才能あるアーティストやリサーチャーを育成・支援するプログラムを継続的に運営している。
https://sema.seoul.go.kr/en/visit/nanji_residency

選考方法

日本のアーティストは、アーカスプロジェクトが推薦した複数名のアーティストから、セマ・ナンジレジデンシーが選出した。韓国のアーティストは、セマ・ナンジレジデンシーがレジデンスプログラム過去参加アーティストを対象に公募を行い、その中から1名を推薦した。

2023 Participating Artist

永田康祐Nagata Kosuke

日本

1990年愛知県生まれ。神奈川を拠点に活動。社会制度やメディア技術、知覚システムといった人間が物事を認識する基礎となっている要素に着目し、あるものを他のものから区別するプロセスに伴う曖昧さについてあつかった作品を制作している。
http://knagata.org

[主な展示・活動歴]

2022 「Feasting Wild」(karch、石川)
2020 「αMプロジェクト2020–2021『約束の凝集』vol. 2 永田康祐|イート」Gallery αM、東京
2022 「見るは触れる:日本の新進作家 vol.19」東京都写真美術館、東京
2019 あいちトリエンナーレ2019:情の時代、愛知県美術館、愛知
2018 「オープンスペース2018:イン・トランジション」NTTインターコミュニケーション・センター、東京

《Purée》
4Kシングルチャンネル・ヴィデオ, 35′23′′, 2020
撮影:守屋友樹

《Translation Zone》
4Kシングルチャンネル・ヴィデオ, 27′23′′, 2019

《Eating Body》
フルコースの食事の提供, 2021
撮影:五十嵐拓也

推薦理由

永田は、本プログラムにおいて、韓国と日本の、海をめぐる交通や食文化をとおして韓国と日本の関係を再考するプロジェクトに取り組む。17世紀に日本から韓国へともたらされた唐辛子がたらこと合わさって明卵漬となり、20世紀初頭の日本の統治下にあった韓国から日本へともたらされて明太子となった。また同時期には、日本から出汁の素として煮干しが韓国へもたらされて根づいた。永田は、市井の人々の生活文化の歴史を紐解くため、韓国では漁業やそれにまつわる食に関して専門家に聞き取りを行い、同じ海を介してそれぞれの食文化を間主体的に捉えようとする。これまで、国家とイデオロギーによる同化と排除を、食文化という観点から洞察して作品を制作してきた永田の関心は、奇しくも本プログラムでアーカスが韓国より招聘するRice Brewing Sisters Clubの関心とも重なる部分が多い。近代化以前、海運と漁業による海の文化が栄えていた時代の、両国の文化の行き来を想像させる試みとなることに期待を寄せている。(ディレクター 小澤慶介)

2023 Participating Artist

Rice Brewing Sisters Club

韓国

ソン・ヘミンとリュ・ソユンによるアーティスト・コレクティブ、Rice Brewing Sisters Club(RBSC)は、芸術表現の形式として「社会的な発酵」のプロセスを探るという二人の共通する関心に基づき、2018年に設立された。ビジュアルアートからパフォーマンス、クリエイティブ・ライティング、オーラルヒストリー、エコロジー的思考、おばあちゃんの知恵までを網羅した参加型の実践を通じて、相乗的なネットワークの構築を目指し、未来に向けて共有するビジョンを人々とともに創っている。
https://www.instagram.com/ricebrewingsistersclub/

[主な展示・活動歴]

2022 釜山ビエンナーレ:We, on the Rising Wave、釜山現代美術館、韓国
2022 「Hackers, Makers, Thinkers: Collective Experiments in Social Fermenting」Art Laboratory Berlin、ドイツ
2021 第13回光州ビエンナーレ パブリックプログラム「Kkureomi: Unboxing with the Sisters」光州、韓国
2020 「Soil-Soil Land」安城市の農場、韓国

《Sea Plants, Bare Hands, Entangled Gaetbawi》
インスタレーション, 2022

《Chew Chew Spit Spit》
プロジェクト, 2019

《Death is More: DRY or DIE》
プロジェクト, 2022

選考理由

RBSCの関心は、韓国から日本、そしてその先のアジア側の環太平洋の島の連なりと生活文化にある。なかでも海女の生活や労働、環境への関わりをとおして、島々の地理的な結びつきとその歴史の読み直しを活動の主軸としている。アーカスプロジェクトでは、海女と関係の深い寒天に着目し、海女による漁が行われている地域や研究機関を訪れ、文化や史実をリサーチする。また、同時に、エコロジーや労働の観点から海女の活動を捉えなおすことを試みる。今、国際展などで取り上げられる作品のテーマとして挙げられるものの多くに、地球環境や生態系、国境を越えた移動とその記憶、性の多様性などが関わっている。近代社会の男性中心的で普遍的な価値観へとまとめあげることに対する疑いがそれに抑圧されてきたあらゆる人々から投げかけられている時、RBSCの活動は、時代の過渡期を同時に複数の視点から照らし出すものになるだろう。(小澤慶介)