Artist in Residence Programアーティスト・イン・レジデンスプログラム

1994年から実施しているレジデンスプログラムは、現代アートの分野で活動するアーティストに、作品の 構想力や創造性を養う機会を提供しています。東京から約 1 時間という場所に位置するアーカススタジオでは、 日本の現代アートシーンに触れることができるとともに、落ち着いた環境で一般市民とも交流しながら創作活動 に専念することができます。また、定期的なキュレーターとのチュートリアルとコーディネーターによるサポートをとおして、アーティストは、自らの制作における方法論を探求し、新たな表現に挑戦することができます。
本プログラムは、リサーチに重きを置いた実践を重視しており、制作過程で生み出される試作をオープンスタジオで公開します。人や土地、文化との出会いを糧にし、国際的な批評空間へと開かれていくようなプロジェクトや作品のアイデアを歓迎します。

滞在期間:
約90日間
助成内容:
スタジオ、住居、渡航費、滞在費、制作活動費、専門的・人的サポートなど。
2023年度:滞在費と制作活動費として567,000円を支給。(※助成金額が変更になる場合があります。)
応募資格:
• 現代美術およびそれに近いジャンルで活動するアーティスト、またはグループ。
• プログラム期間中に教育課程に在籍していないこと。ただし、博士課程在籍中の者は応募可とする。
• 他のアーティスト、スタッフと交流するための英語力を有していること。
公募期間:
1月-3月頃(予定)
詳細:
これまでのレジデントアーティスト

2023 レジデント・アーティスト

  1. ローラ・クーパー(英国)
  2. 進藤冬華(日本)

今年は330件(65か国・地域)の海外からの応募と、14件の国内からの応募がありました。厳選なる審査の結果、ローラ・クーパー(英国)と進藤冬華(日本)を選出しました。2名のアーティストは、9月7日から12月5日までの90日間、茨城県守谷市のアーカススタジオで滞在制作を行います。

審査は後藤桜子氏(水戸芸術館現代美術センター 学芸員)と崔敬華氏(東京都現代美術館 学芸員)をお招きし、アーカスプロジェクト実行委員会との協議のもと行いました。

2023年度の選考結果について

2023年度は、海外のアーティストを1名、国内のアーティストを1名選出した。2020年からおよそ3年つづいた新型コロナウイルスをめぐる世界的な状況が収まりつつ時期に公募を行ったため、海外からの応募は前年度を凌ぐ330件を、また国内からは14件を数えた。
申請書を概観すると、気候変動と環境の変化に関心を寄せているものや、出自あるいはリサーチの対象として移民を起点にトランスナショナルな視点で展開するもの、また日本の文化や風景に触発されて自らの表現を更新してゆこうとするものなどが見られた。また地域住民とともに行う創作を提案するものが多く見られたが、ともに創作することが目的化されすぎる傾きがあったように思われる。海外からは、狩猟をとおして動物をめぐる文化の差異を探るアーティストを、国内からは、移民と防災を軸に自らが住む土地と茨城県南の土地の関係を探るアーティストを選出した。2名のアーティストは、9月上旬から12月上旬まで90日間の滞在制作を行う。
小澤 慶介(アーカスプロジェクト ディレクター)

2023 Resident Artist

ローラ・クーパーLaura Cooper

英国

1983年、英国シュルーズベリー生まれ、バーミンガム在住。アーティストで映像作家であるクーパーは、人間の身体的な制限、また他の人間や生き物の不可知性に関心を寄せ、人間と動物の関係を探求したり人間中心的ではない生活実践を試みたりして、知られざる領域と視点へ歩みよりながら制作を行っている。映像は、可変的で詩的、また人が参加することで成立するドキュメンタリーであることが多い。特定の風景や動物、コミュニティと応答しながら制作するため、これまでに農家や狩猟者、鷹匠、不動産開発者、療法士、科学者などとのコラボレーションをしてきた。アーカスプロジェクトでは、イノシシをモチーフに英国と日本の動物をめぐる文化の違いに着目し、狩猟の現場を調査しながら作品制作を行う。過去の主な展示・活動に「The Political Animal」Hermione Spriggs とのパフォーマンス (The Showroom、 ロンドン、 2017)、 LAM 360°(ウランバートル、 モンゴル、2012)、「Autumn Almanac: The Voice and the Lens」 (IKON Gallery、Birmingham、 UK、2012)などがある。
https://lauracooper.co.uk

《The Sun’s Tongue》
16mmフィルム, 2023

《The Sun’s Tongue》
16ミリフィルム, 2023

《Eating up the Sky 》
インスタレーション, 2018

選考理由

学生時代に日本に短期間滞在した経験のあるローラ・クーパーは、英国と日本における人間とイノシシの対照的な関係に着目し、16mmフィルムとパフォーマンスで構成される作品《Wilder》の制作を進める。想定されるインスタレーションでは、複数の種が生息する森を抽象化して表し、農村あるいは都会の空間的な文脈において、何を「野生」とするかの振り幅を探る予定だ。日本では、イノシシ猟の伝統は失われるとともにその数が増え、農村や都市に侵入しては人間の生活に害を及ぼしている。その一方で、英国において、野生のイノシシは17世期に入って一時絶滅したが、最近になって観光の目玉として、特定の景観のために「再野生化」させられている。アーカスプロジェクトは、人間の生活文化の変遷や自然環境の変化、さらに人間の経済活動のための再資源化など、二国間での人間とイノシシの関係を比較しながらその行く末を探る試みを評価した。
(ディレクター 小澤慶介)

2023 Resident Artist

進藤冬華Shindo Fuyuka

日本

写真:小牧寿里

1975年、北海道生まれ、江別市在住。生まれ育った北海道の歴史や文化を紐解きながら、日本とそれに留まらぬ国々の近代化を進めた見えざる力関係を照らし出すような作品を制作している。時に、近代とともに制度として整備された美術館やその展示方式を使い、北海道の生活文化に言及するオブジェを展示している。その根底には、アーカイブや遺物、伝承などの記録をとおして「残すこと」への社会的な欲望とともにそれへの不信という両義性が原動力としてある。一方で、近代社会の中央集権的なあり方をよそに、自治の思想に基づくアナキズムや地域社会の状況へも関心を寄せ、観察や調査を経て行うパフォーマンスやツアーを手がけている。アーカスプロジェクトでの滞在制作では、移民や防災をキーワードに調査を進め、制作を行う。過去の主な展示・活動に「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京、2022-2023)、「移住の子」(モエレ沼公園、札幌、2019)、International Studio & Curatorial Program (レジデンスプログラム参加、ISCP、ニューヨーク、2017)などがある。
https://www.shindofuyuka.com

《移住の子》
インスタレーション、2023
写真:露口啓二 写真提供:モエレ沼公園

《理想のピクニック》
プロジェクト(ポスター)、2019

《30,000mのゲロ、360mの唾》
プロジェクト、2021
写真:小牧寿里

選考理由

北海道へと移り住んだ家族のもとで育った彼女自身の経験とそこから紡がれる思考を、守谷へと一時的に移り住むことで相対化する試みを評価した。北海道への入植は、日本の近代化と切り離して考えることができない。そうした外的で政治的な要因によってある土地へと赴かされそこで生活を新たにはじめることは、今もなお世界的な規模かつ違った形でさまざまな土地や地域に影を落としている。進藤は、守谷をはじめとした茨城県南の町を調査し、移り住んできた人々と出会うことで、近代を支えているより大きな力のありかを探ろうとする。アーカスプロジェクトは、滞在をとおして彼女自身の目を再び開くようなよき出会いと交流にめぐりあうこと、また彼女が滞在制作を終えたとき、住み慣れた北海道への視点が更新され、そこからまた新たな表現活動がはじまってゆくことを期待している。
(ディレクター 小澤慶介)