Exchange Residency Programエクスチェンジ・レジデンシー・プログラム

         

2021年度プログラム

2021年度は韓国、ソウルのセマ・ナンジレジデンシーと協働しました。
参加アーティストの井田大介は、セマ・ナンジレジデンシーがデジタル空間に構築したプラットフォームで、韓国のアーティスト4組、ドイツのアーティスト1組と共同制作を行いました。制作された作品は、デジタルフォーマットのプロジェクトとしてウェブサイト上で公開されたほか、ソウル市美術館(Seoul Museum of Art)での展覧会においても発表されました。コロナ禍のなかで移動が制限されている社会状況において、オンラインでのレジデンスプログラムの枠組みとアーティストどうしの協働の可能性を追求し、提案しました。

プログラム期間

2022年1月5日-3月15日(70日間、オンライン)

連携団体 セマ・ナンジレジデンシー(韓国)

撮影:Kim YongKwan

セマ・ナンジレジデンシーは、2006年にソウル・蘭芝島の浸出水処理施設を改修して開設された。国際交流の活性化を目的としたさまざまなプログラムを実施し、アーティストには整った環境で制作に集中できるよう、スタジオを提供している。ソウル中心部に位置し、25のスタジオ、ラボ、ギャラリー、屋外ワークショップがあり、才能あるアーティストやリサーチャーを育成・支援するプログラムを継続的に運営している。
https://sema.seoul.go.kr/en/visit/nanji_residency

選考方法

日本のアーティストは、アーカスプロジェクト実行委員会が推薦したアーティストの中から、セマ・ナンジレジデンシーとアーカスプロジェクト実行委員会が選出。

2021 Participating Artist

井田大介Ida Daisuke

日本

1987年鳥取県生まれ、東京都在住。2015年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。彫刻という表現形式を問いながら、彫 刻・映像・3DCGなど多様なメディアを用いて、目には見えない現代の社会の構造やそこで生きる人々の意識や欲望を視覚化している。2016年からは、世界中の人々がインターネット上にアップロードしている匿名的な画像を素材として、インターネット以降のモノや身体のあり方を彫刻する「Photo Sculpture」を継続的に制作している。
https://www.daisukeida.com

[主な展示・活動歴]

2021 東京ビエンナーレ2020/2021、新東京ビル、東京
2020 「Public Device -彫刻の象徴性と恒久性」東京藝術大学大学美術館 陳列館、東京
2018 「Photo Sculpture」3331 アーツ 千代田、東京
2017 「ラブラブショー 2」青森県立美術 館、青森
2016 富士の山ビエンナーレ 2016「フジ ヤマ・タイムマシン」 富士市、静岡

Meeting of participating artists
Photo courtesy: SeMA Nanji Residency

Platform
Photo courtesy: SeMA Nanji Residency

Digital images as material for collaboration.
(The Gate of Hell, 2022)

推薦理由

アーカスプロジェクトとセマ・ ナンジレジデンシー(韓国、ソウル)が初めて協働するエクスチェンジ・レジデンシー・プログラムで は、デジタル空間に制作プラットフォームを構築し、異なるメディアで創作する日本、韓 国、ドイツのアーティスト6組が共同制作を行う。これは、コロナ禍においても、オンラ イン上でアーティストたちの交流を実現する方法を追求した、アーティスト・イン・レジ デンスの新しい形である。 井田大介は、現実とヴァーチャルな空間を行き来しながら彫刻のあり方とともに同時代を 問う活動をしている。自らがフォト・スカル プチャーと名付ける《地獄の門》では、インターネット上を漂っている数限りないオーギ ュスト・ロダンの《地獄の門》の画像データを集め、解析し、そのデータをもとに《地獄の門》を3Dプリンターで象る。実体からイメージへ、そしてイメージをまた三次元の立体 に戻すそのプロセスは、世界各地で《地獄の門》を撮影した人たちの思惑と欲望を表しているようにも見える。このプログラムをとお して、井田が韓国のアーティストとディスカッションを重ねながら、コロナ禍における創 作の可能性を切り開くとともに、自らの制作 をより高いレベルに引き上げることを願って いる。 (ディレクター 小澤慶介)

アーティスト・ステイトメント

今回のプログラムは非常に実験的だった。実際に韓国を訪れることなく、制作から発表までの全ての過程がオンライン上で行われたからだ。この試みには、コロナ禍以降の新しいレジデンスの形を探る意味も込められていた。

定まった方向性は、3Dデータ、画像、音、映像を各国のアーティストがそれぞれ制作し、一つのプラットフォーム上にアップしてランダムに組み合わせるというもの。誰もが着地点を想定できないまま、それは始まった。私は東京で普段と変わらない生活を送りながら、週2、3回のペースでディスカッションに参加した。

主な担当は3Dデータ。「偶発性」「オンライン」という作品の性格を踏まえ、3Dデータにもそれらの要素を取り込もうと考えた。一般観光客が撮影しネットに投稿した特定の彫刻の画像を収集し、3Dデータとして構成した。
 
最終的に各々が40程度の素材をアップし、「一つ」の作品ができあがった。鑑賞者が色、音、データ数などを設定すると、それらがランダムに構成されて仮想空間に出力される。設定によって出力される作品は「無数」にある。
 
個が緩やかに融合して生まれる偶発性は、作品だけでなく、制作過程でも感じた。想定外の連続に翻弄されたが、ふとした瞬間に次の作品へのヒントも得た。韓国には行けなかったが、アーティストらとの交流を通じて新しい韓国をたくさん知ることができた。それらを素材として構成した私の中の「韓国」(仮)は実際の韓国と合っているだろうか。いつか確認しに行こう。

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