イエヴァ・ラウドゥセパ / Ieva Raudsepa

Photo: Alia Ali

  • 招聘年2020年度レジデント・アーティスト
  • 出身1992年ラトビア生まれ
  • 国籍ラトビア
  • 招聘期間 2020年9月24日-12月17日(85日)
  • ウェブサイトhttp://www.ievaraudsepa.com/
滞在制作にあたって

私の調査の出発点となったのは、アンドレイ・タルコフスキーの1972年の映画『惑星ソラリス』に出てくる、都会の高速道路を運転する5分間の場面だ。このエピソードは1971年に東京都の赤坂と飯倉で撮影されたもので、白黒とカラーのフッテージと登場人物を映し出したいくつかのショットが組み合わされ、時間、空間と知覚が相互に作用している。東京で撮影された部分は、映画の中で未来都市の表象として使われている。

私の調査過程は、以下の一連の問いに基づくものだった。私はこのエピソードと複雑に関係している政治の問題に関心があった。なぜソビエト連邦の映画監督が「未来都市」を日本で撮影することに決めたのか。ソビエト国民はソ連国外への渡航が厳しく制限されていたが、このシーンを撮影するにあたり、タルコフスキーはどのような困難に直面したのだろうか。彼はなぜ高速道路を撮影することにしたのか。そして、首都高(首都高速道路)のデザインと建設にはどのような歴史があるのだろうか。都市間高速道路の建設は、都市の構成にどのような変化をもたらしたのだろうか。ポップカルチャーや人々の想像の中で、東京が未来都市として描写されている例は他にどのようなものがあるのだろう。

アーカスでのレジデンスでは、既存の文献、イメージや映像資料の調査と、日本国内外の専門家へのインタビューを通して、こうした疑問を探る機会に恵まれた。そしてまた、現地のキュレーターと出会い、これまでのプロジェクトや進行中のリサーチについて話し合うこともできた。アーカスのチームからは、個人や組織と連絡を取るために多大な協力を受けた他に、情報を探すべきところ、読むべきもの、話すべき人などに関して、新しい発想を得るための手助けをしてもらった。

私は今、こうして集積した知識とさまざまな歴史を、映像作品の台本、またはその骨組みとなるように、何らかの形にまとめようとしている。調査を経て、私は2つの大きなテーマを映像作品の制作を通して探っている。まずは、未来の都市として、東京がどのように表現されてきたのかということだ。そして、戦後日本のインフラ整備の文脈から、都市がどのように認識されてきたのかという問題に関心がある。首都高はそのひとつの例だ。実際に建設されたものの他にも、建築家や文筆家、映像作家の想像力によって、東京は未来都市として描写されてきた。私は特に建築におけるメタボリスト達のムーブメント、そしてテクノオリエンタリズムに関心を持っている。

私が扱っている2つ目のテーマは、『ソラリス』の中の高速道路のシーンの制作にまつわる思索的な歴史と、生と死、愛、そして人間の存在の意味などをめぐる一連の形而上学的な問いとして、世界を捉えるタルコフスキー流の世界観、そして、それが未来の展望とどのように関わっているのかということだ。私はこうしたテーマを検証しながら、アンドレイ・タルコフスキーは、自身の作品に制約を課し検閲を行う政治体制下に生き、制作活動に取り組んだ映画監督であったことを常々考えている。そしてこれから、私は、2020年のレジデンス中に行った調査を参考にしながら、映像作品のための架空の物語を書き上げ、実際に日本への渡航が可能になったときに撮影をする予定だ。

1992年ラトビア、リガ生まれ、ロサンゼルス在住。ラトビア大学で哲学を学んだ後、カリフォルニア芸術大学にてMFAを取得。ラトビアがソビエト連邦から独立した後に生まれ、共産主義から資本主義への転換期に育ったラウドゥセパは、自らと同世代であるソ連崩壊後の最初の世代の若者たちを、主に写真や映像作品で表象している。映像制作においては、理論とフィクションの効果的な組み合わせで物語を作り、メタレベルでその物語を問い直す。日常の空間で役者が演技をすることで、役者の演技の虚構性とともに、実際の状況が偶然語る部分にも関心を寄せている。

[主な展示・活動歴]
2019 「Future Ghosts」Human Resources, ロサンゼルス, 米国
2019 「Haunts」 CalArts 2019 MFA Exhibition, Track 16, ロサンゼルス
2019 「It Could Just Swallow You Up」 ISSP Gallery, リガ, ラトビア
2019 「Futures Photography」Unseen, アムステルダム, オランダ
2018 「Post-Soviet Visions: image and identity in the new Eastern Europe」Calvert 22 Foundation, ロンドン, 英国

選考理由
ラウドゥセパは、1972年にアンドレイ・タルコフスキーが制作した映画『惑星ソラリス』に着想を得て、映像作品を制作する予定だ。『惑星ソラリス』には、未来の都市を象徴するものとして建設されて間もない東京の首都高が映っている。高速の移動を可能にする首都高は、それ以前の都市のリズムを解体するとともに、新たなリズムを形成しつつある現在、そしてさらに加速するであろう未来の予感を含んでいる。オンラインによる活動においては、首都高の建設による東京の変容について調査し、フィクションを織り交ぜた脚本を書く予定。コロナ禍で生活や経済の速度が低下している今、彼女の制作は、反証的に近代社会の速度にまつわる神話あるいは欲望のようなものを映し出すと思われる。

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2020

イエヴァ・ラウドゥセパ〈ラトビア〉

ミロナリウ[クロディアナ・ミローナ&ユァン・チュン・リウ]〈アルバニア/台湾〉

オル太〈日本〉