渡邊 拓也 / Takuya Watanabe

  • 招聘年2019年度レジデント・アーティスト
  • 出身1990年東京生まれ
  • 国籍日本
  • ウェブサイトhttp://wtakuya.web.fc2.com/
滞在制作にあたって

《Good luck on your journey》

いかにして他の誰かの見ている世界を知ることができるか、またそれを表象することができるか。これは私の制作における大きな課題です。アーカスプロジェクトでの滞在では、「他の誰か」として常総市に住む日系ブラジル人にフォーカスをあてました。彼らは、日本とブラジルにおける文化的、政治的、言語的な違いの中で複雑なアイデンティティを持ちます。


《Good luck on your journey》という映像作品は、人生の前半をブラジル、後半を日本で過ごしてきた日系ブラジル人男性と、日本で生まれ育った彼の息子との出会いを契機とし、彼らとともに制作しています。この男性はよくステレオタイプな日本人のようにふるまいます。日本語での日常会話や慣例的な挨拶を身につけている一方で、複雑なことや感情が伴うことは日本語で伝えることができないと言います。私はまずこの男性に、日本へ旅立つ前の過去の自分に手紙を書くことを提案しました。そして、ポルトガル語で書かれたその手紙を、当時の彼と同年代の息子が受け取り、息子は手紙を日本語へ翻訳します。日本語に訳された手紙を、息子の協力をうけながら、男性が日本語で語り直す過程をとらえたのが今回の映像作品です。手紙には、この男性が見た日本社会と、これから希望を持って日本へ働きに来ようとしている若者への励ましの言葉が綴られています。

1990年東京生まれ、在住。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。調査や聞き取りを通して出会ったある個人の境遇を取り上げながら、逆説的に社会の構造や力を明かすような映像インスタレーションを制作している。もともと陶芸をやっていた渡邊だが、ある時訪れた陶器のタイル工場で目にした工員の単純作業に着想を得て制作した、労働をテーマにした作品《工員K》、また、兄弟の関係と家庭内暴力を巡る出来事をモチーフに、郊外や家族をテーマにした作品《弟の見ていたもの》などをこれまでに発表してきた。

[主な展示・活動歴]
2018「明け方の計略」, 駒込倉庫 Komagome SOKO, 東京
2017「野生展:飼いならされない感覚と思考」, 21_21 DESIGN SIGHT, 東京
2017「ゆるんだ遠近法」, gallery COEXIST-TOKYO, 東京
2016 アートアワードトーキョー 丸の内 2016 審査員賞
2015「TWS-Emerging 2015【第6期】」, トーキョーワンダーサイト渋谷, 東京

選考理由
アーカスプロジェクトでは、守谷市のとなりの常総市での、日系ブラジル人コミュニティと日本人社会との分断に着目し、調査を経て作品を構築する。2015年の夏に起きた関東・東北豪雨は常総市を流れる鬼怒川の堤防を決壊させ、非常時における人々の協働を生んだ一方で、その災害情報の伝達を巡ってはコミュニティの分断も明らかになった。当時の心理や感情について当事者への聞き取りや現場での調査を行う予定だ。自然災害や移民、労働などをテーマに現代の日本の社会を捉えなおす試みに期待が持てる。
 

オープンスタジオによせて
渡邊は、ある特定の個人が向き合っている現実から、より大きな社会の仕組みや力のあり方を、映像インスタレーションで描き出します。これまでに、大きな工場で働く工員に聞き取りをして制作した《工員K》や、大都市の郊外で暮らす一家の破局の物語を語り直した《弟の見ていたもの》などを発表しています。

アーカスプロジェクトでの滞在では、守谷市の隣の常総市に住む日系ブラジル人コミュニティへ赴き、彼らと地元の日本人社会との関わりを調べることから作品を構想しました。そこで出会ったのがユウゾウさん。22歳の時に故郷のブラジルを離れて来日し、今年で来日21年目になるそうです。話をしてゆくうちに、渡邊は、彼が社会生活では日本語を、細やかな感情を表現するにはポルトガル語を使っていることに気づきます。それは、彼のアイデンティティ(自己同一性)が2つの言語文化の間で引き裂かれているようであったとも言います。

オープンスタジオにおいて、渡邊は、そうしたユウゾウさんが、ブラジルを旅立つ21年前の自分に向けてポルトガル語で書いたメッセージをもとに映像インスタレーションを展開しています。登場人物はユウゾウさんともう一人、彼の息子であるガブリエルさん。ポルトガル語と日本語を自在に操る息子が手紙を翻訳し、ユウゾウさんがそれを日本語で読み上げる時、常総市に埋め込まれている薄くとも確実に存在する日系ブラジル人の文化政治的な一つの層が浮かび上がってくるようです。

ディレクター 小澤慶介

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2019

クリストファー・ボーリガード〈米国〉

渡邊 拓也〈日本〉

ルース・ウォーターズ〈英国〉