ルース・ウォーターズ / Ruth Waters

  • 招聘年2019年度レジデント・アーティスト
  • 出身1986年英国生まれ
  • 国籍英国
  • ウェブサイトhttp://www.ruthwaters.co.uk/
滞在制作にあたって

《無題》

宇宙飛行士が宇宙から見た地球の景色に関し、すでに多くのことが語られてきた。そこでは人為的に作られた国境や地球の存在のはかなさがさらけ出され、それまでの考え方が一変するような体験だと言われている。しかしそう遠くない未来において、これは飛行機からの景色と同じくらい身近なものとなるだろう。

そのとき、(地球が見える窓とは)反対側の窓から見える深宇宙の景色とは何なのだろう。この景色が人間の考え方をどのように変えるのだろう?今回の滞在制作では、無限や宇宙空間がどのように人間の精神に影響を及ぼすのかをリサーチしてきた。木下冨雄(きのしたとみお)1さんには無限の暗闇と微小重力に関するお話を、山崎直子(やまさきなおこ)2さんからはISS(国際宇宙ステーション)の窓から見える景色に何を感じたのか、また浦田悠(うらたゆう)3さんには地上における大きな実存的な問題に我々がどのように向き合い、理解できるのかを伺った。宇宙空間を理解しようと試みることで、私たちの日常の在り方が意図的に作り上げられたものであることに気づき、新たな日常の在り方を想像する契機になるのではないかということに、私は関心を寄せている。

1 京都大学名誉教授である木下冨雄は、2005年にJAXAと共同で人文・社会科学からの宇宙開発の研究を行った。
2 山崎直子はJAXA所属時に宇宙飛行士として、スペースシャトル・ディスカバリー(STS-131)のミッションで宇宙に行った。
3 大阪大学の研究者である浦田悠は、「人生の意味」を研究対象としている。

1986年イギリス、ランカスター生まれ。現在はロンドンを拠点に活動している。ゴールドスミスカレッジにてファインアートを学んだ。ウォーターズは、高度にネットワーク化された現代において、過密になるコミュニケーションが現代に生きる人々に及ぼす「不安」に関心を寄せている。インターネット上の資料の調査や当事者への聞き取りなどをもとに自ら脚本を書き、セットを設え、撮影し、映像インスタレーションとして発表する。

[主な展示・活動歴]
2019 ‘Frequency of Magic’, out_sight, ソウル, 韓国
2019 ‘All About You’, The Koppel Project Hive, ロンドン, 英国
2019 ‘Push Your Luck’, Island, ブリュッセル, ベルギー
2018 ‘The 6th Moscow International Biennale for Young Art’, モスクワ, ロシア
2018 ‘White Shadows’, wumin art center, 清州, 韓国

選考理由
彼女は、人間のエゴと宇宙開発について調査をする予定。後期資本主義社会において、人類が未だ到達していない領域を切り開いてゆく意思と行動は一体何に支配されているのかという問いに向き合う。人間はいつ宇宙を意識するのか、またそうした宇宙空間と資本主義との関係はどのようなものであるのかを、関係者や専門家に聞き取りを行い、映像として発表する。世界(資本主義)と宇宙空間の関係を守谷から考えるという視点は注目に値する。
 

オープンスタジオによせて
ウォーターズは、経済の成長を目指す資本主義の社会が人々にもたらす不安に着目し、主に映像インスタレーション作品を制作しています。実際にマインドフルネスのセラピーで使われている言葉や方法、空間を作品に取り入れながら、社会における人間の心理を巧みに描き出します。

ウォーターズがアーカスプロジェクトの滞在中に取り組んだことは、宇宙空間における人間の認識や心理の変化を探ることです。しばしば宇宙飛行士たちが経験する概観効果(overview effect)は、宇宙から地球全体を見る経験に起因する認識的・心理的変化ですが、人間は地球全体を見渡すことができると、悩みや諍(いさか)いの無意味を感じるようになるとのこと。ところが、宇宙心理学の研究者に取材をしたところ、地球の姿が見えなくなって全くの暗闇になってしまう宇宙空間では、人は自らの存在の意義を把握することが困難であることを知ることになります。いずれにしても、彼女は、人間が宇宙空間について理解を深めたならば、資本主義によって形づくられる日々を絶対視することはなくなるのではないかと思うに至りました。

暗くしたスタジオでは、宇宙の空間について語る宇宙飛行士や宇宙心理学研究者などのインタビュー映像が投影されています。宇宙は不安から人間を解き放つのか、あるいは人間をさらなる別の不安の渦に巻き込んでゆくのか。資本と不安をめぐる問いはつづいてゆきます。

ディレクター 小澤慶介

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2019

クリストファー・ボーリガード〈米国〉

渡邊 拓也〈日本〉

ルース・ウォーターズ〈英国〉