クリストファー・ボーリガード / Christopher Beauregard

滞在制作にあたって

《半分空虚な時間》

夏季オリンピックを主催するにあたり、東京は同じ歴史を繰り返すのか?この問いをこの三ヵ月にも及ぶリサーチの基点としたが、そのほかの全ての出発点と同じように、ここから飛び立つことによってのみ、帰り道が分るとういうものだ。

今回のオリンピックを含めると、東京は三回のオリンピック・イベントの場となる:開催されなかった1940年の東京オリンピック、1964年に開催された東京オリンピック、そして2020年に開催予定の東京オリンピック。三つの歴史であり、また一つの歴史でもある。過去というものは時として非常にわかりにくいものだ。

日本橋をリサーチの拠点としたが、それは日本橋が歴史的にも日本の地理的中心であり、また二本の橋が同じ空間をありえないようなかたちで占有する、一時的かつ空間的な破断点(江戸時代に作られた運河に架かる日本橋の上を、1964年に建設された高速道路が横断している)となっているからである。ここでは加速された人の流れと物憂げな運河の衰退が重なり合う。運河の気だるい流れにこのリサーチを委ねることにより、2020年東京オリンピックの選手村のある人工島(不動産価値の高騰が見込まれる再領土化された区画)に辿り着いた。

この一時的なスタジオに何をもたらし、何を残していくのか考えてきた。ここは過渡的な空間であり、ここは私がこの場所にやって来る前の時間と、この場所を過ぎ去った後を繋ぐ橋である。そしてここで、私が現在と呼ぶ、定点、中心を見つけた。

1981年アメリカ、アイダホ州生まれ。現在ベルギー、ブリュッセル在住。カーネギーメロン大学にてファインアートを学んだ。ボーリガードは、労働と余暇の関係に関心を持ち、主にオブジェを用いたインスタレーション作品を制作している。都市の構造と人間の行動を観察しながら、労働によって編み込まれる日常とその空隙に生まれる遊びの関係を、有機物と無機物また質感の異なる素材を組み合わせることによって軽やかに浮かび上がらせる。

[主な展示・活動歴]
2018 ‘Mauvais Voisin’, Le Sceptre, ブリュッセル, ベルギー
2017 ‘Meeting Points 8: Both Side of the Curtain’, Beirut Art Center, ベイルート, レバノン
2016 ‘Meeting Points 8: Both Side of the Curtain’, La Loge, ブリュッセル, ベルギー
2015 ‘The 31st Biennial of Graphic Arts’, International Centre of Graphic Arts, リュブリャナ, スロベニア
2014 ‘Pittsburgh Biennial 2014’, Pittsburgh Center for the Arts, ピッツバーグ, ペンシルベニア州, 米国

選考理由
彼は、2020年のオリンピック・パラリンピックによって変化する東京を、過去に同様の経験をしたバルセロナやロンドン、さらに50余年以上前の東京と比較をしながら調査する。いずれの都市にもオリンピック・パラリンピック時に建てられ、現在は使われていなかったり取り壊されたりしている建築物がある。またそれが与えたコミュニティへの影響についても調査し、インスタレーションとして発表する予定だ。世界が注目するイベントを構造的に分析しつつ詩的に表す方法論に期待ができる。
 

オープンスタジオによせて
ボーリガードは、さまざまな街を訪れ、余暇と労働をテーマに、オブジェや写真、映像などを組み合わせて作品を制作しています。それは、個人一人一人というより、その集合である社会や時代の無意識を探りあてようとする試みのように見えます。

アーカスプロジェクトの滞在において、ボーリガードは、1964年と2020年の2つの東京オリンピックについて調べ、その間に変わってきた都市を隠喩的に表しています。制作を進めていく上で印象的だったことは、彼が直感的に、1964年に見た未来は2020年において実現しておらず、2020年の夢を1964年の高度経済成長期に見ているようだと指摘したことです。ノスタルジーに向かっている未来の東京オリンピック。これら2つのオリンピックを結ぶ素材として、循環を意味する「水」に着目しています。1964年の東京オリンピックでは川を使って都市の交通網が整えられました。そして2020年のオリンピックでは、東京湾岸の水辺に競技会場が整備されています。スタジオには、日本橋川などを取材した映像と地元の陶芸家に提供してもらった甕(かめ)が配置されています。甕には小さなカーブミラーがついていて、覗き込むと守谷市内やカシマサッカースタジアムにおいて集められた水が溜まっています。互いに背を向けたミラーは、過去から未来また未来から過去を見ることの隠喩になっていて、水を巡って過去と未来が交わる現在地を表しているようにも見えます。

ディレクター 小澤慶介

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2019

クリストファー・ボーリガード〈米国〉

渡邊 拓也〈日本〉

ルース・ウォーターズ〈英国〉