エリカ・セルジ / Erika Ceruzzi

  • 招聘年2018年度レジデント・アーティスト
  • 出身1990年米国生まれ
  • 国籍米国
  • ウェブサイトhttps://erikaceruzzi.com/
滞在制作にあたって

《F1(雑種第一代)》

《F1》は、日本における遺伝子組換えシルクを取り巻く私のリサーチを体験するためのインスタレーションである。《F1》では一時的に私のスタジオ1という部屋番号を置き換え、F 1ハイブリッドへと言及している。この記号は、生物学において2つの異なる親系統から生まれる子孫を示すものである。

遺伝子組換え蚕に対する私の興味はシルクの構造的特性に魅了されたことから始まった。シルクはとても丈夫であると同時にデリケートな、生体適合性の高い繊維であり、アメリカではシルクに防弾機能を持たせる開発が軍事用に進められている。遺伝子組換え技術によって家蚕(カイコ)の生体にクモのDNAを挿入することでより強いシルクを作ることが可能になるのだ。

リサーチの過程で、私は人間と蚕が極めて親密な関係を持つことを発見した。何世代にもわたって、生糸が日本の主要な輸出品となり経済成長の要となった時でさえ、明治維新の時期に絹産業が根付いた地方では、蚕は人々の家の中で飼育されてきた。

何が最適な環境になりうるかを問いかけつつ、私は蚕と人間の遺伝的絡み合いの可能性をいざなう。その合成はハイテクなラボではなく、むしろ、ある宿泊可能なリサーチ・コンプレックスで起こるだろう。それは仮想の不完全な空間であり、イマジネーションのための単なる枠組みにまで削ぎ落とされている。私はかつて教室であったこの空間に微かに手を加えることで、家庭のような空間へと再構築した。

1990年、アメリカ合衆国、メリーランド州生まれ。ニューヨーク在住。クーパーユニオン(ニューヨーク)でアートを学ぶ。産業製品用に加工された素材に手を加え、物質本来の用途や機能を撹乱するような彫刻を制作している。アルミパイプ、コード、ファブリック、紙など工業的な素材と手工芸的な素材を組み合わせて彫刻やインスタレーションを制作。近年は刺繍を用いた表現も試みる。彫刻を中心にしてはいるが、空間を読みこんだインスタレーションを得意とし、また作品の一部を来場者が切り取って腕に巻くことのできるような表現も試みるなど、その実践は拡大傾向にある。これまで主にアメリカで活動し発表してきた。

[主な展示・活動歴]
2017 ‘Amber Inclusion’, Low Rence, サンフランシスコ, カリフォルニア州, 米国
2017 ‘Sleepers’, Hel Galery, ニューヨーク, ニューヨーク州, 米国
2016 ‘Laundered Fang’, Springsteen, ボルチモア, メリーランド州, 米国
2016 ‘Wrath Binned Face Pinned’, Et al, サンフランシスコ, カリフォルニア州, 米国
2015 ‘Menswear’, The Still House Group, ブルックリン, ニューヨーク州, 米国

選考理由
セルジはプロポーザルでシルクについてのリサーチを挙げた。それは、1)米国における、軍事目的で開発されているクモの糸を吐く蚕についての調査、2)日本での遺伝子組換え蚕についての調査、3)富岡製糸場など養蚕業をめぐる歴史的文脈についての調査である。これらが示唆する視点の広がりと深みが興味深いものであることに加え、これまで自身の制作へのアプローチは「詩的なものだった」と言うセルジが、素材のひとつとして選んできたファブリックの一種に焦点を当て、社会政治や科学へと視野を広げる、その野心的な挑戦を応援したいと考えた。
 

オープンスタジオによせて
アメリカで軍事的な目的のために開発されている、クモの糸の特性を持った糸を吐く蚕の話を知ったエリカ・セルジは、政治的な意味合いを持つこともある「蚕」という生物に大きな関心を抱きました。日本滞在中、彼女はキュレーターやスタッフと、紀元前の中国から始まる絹産業の長い歴史や、ユーラシアを結んだシルクロードの存在、そして養蚕業が日本の近代化の中で果たした役割、その裏にあった女性労働力の搾取、また遺伝子工学における蚕の研究など、関連するさまざまなトピックについて話し合いました。また富岡製糸場、群馬の現役の製糸工場と養蚕農家、横浜のシルク博物館、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)などに出向いて調査をし、蚕、養蚕、また蚕と人間の関係について知見を広めました。
オープンスタジオでは、調査の過程で得られたものをインスタレーションの形で視覚化します。特に2頭の蚕が一緒に繭を作ってしまう現象「玉繭」— 一般に製品化には適さないとされる —についての考えを形にします。また、農研機構のラボを巡った際に何度も履き替えたスリッパの印象を元に、来場者のためのスリッパを制作した。それは衛生についての考えの違い、儀式的なふるまいといった“地域性”への感性を示しています。
セルジが行なったのは、彫刻の素材である布の、1つの素材であるシルクが、さらにその素として孕(はら)む地理・歴史・身体の政治性を発見する試みと言えるでしょう。

金澤 韻

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2018

ジハド・ジャネル〈トルコ〉

エリカ・セルジ〈米国〉

イリカ・ファン・ローン〈オランダ〉