ジハド・ジャネル / Cihad Caner

  • 招聘年2018年度レジデント・アーティスト
  • 出身1990年トルコ生まれ
  • 国籍トルコ
  • ウェブサイトhttp://www.cihadcaner.com/
滞在制作にあたって

《飼い慣らせないモンスターをde-monsterする実演(飼い慣らすデモ)》

この物語で「他者」とはモンスターのこと。彼らが現れるのは、地図には存在せず、船は停泊せず、羅針盤で捉えることのできない場所。それは陸地のない国。世界の果て。伝えられるところによれば、野生のものたちは辺境に住むという。これらの「他なるもの」たちは、精神が虚弱になり、幻想が興隆する境界地域の住人である。

モンスターは私たちに本来備わっているカテゴリーを破壊し、再考するよう私たちを挑発する。彼らは「未知」によって見慣れた世界を脅かし、私たちは恐怖に震える。彼らは地獄か天国へと追いやられる、あるいは人間のコミュニティから異人の地へと。モンスターの肉体はそれ自体が政治的主張であり、社会階層にとって根源的な事実とされている全ての仮定を覆す。モンスターは楽園を知らず、粘土でできていないが故に、塵に帰するのを夢見ることもままならない。

このプロジェクトはモンスターとしての「他者」のイメージに焦点をあてている。支配的なイメージメーキングのメカニズムでは、それはかなり特定的なイメージで描かれている。私はザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカーズヴィーニによる古代の写本『被造物の驚異と万物の珍奇』、Siah-Qalam*の図像、鳥山石燕(せきえん)によって描かれた『画図百鬼夜行』の日本の妖怪(モンスターと超自然的なキャラクター)から着想を得てアニメーションのアバターを制作した。

*Siah-Qalam
中央アジアに現存する14世紀後半から15世紀前半の細密画、ドローイング、絵画、カリグラフィーのこと。中国美術の強い影響が見られると共に、仏教やシャーマニズムのシンボルが描かれている。

1990年、トルコ、イスタンブール生まれ。イスタンブールと、オランダ、ロッテルダムに拠点を置く。マルマラ大学(イスタンブール)でフォト・ジャーナリズムを学んだのち、ロッテルダムのピート・ズワルト・インスティテュートでメディア・デザイン&コミュニケーションを学ぶ。トルコでのフォト・ジャーナリストとしての経験から、戦争の悲惨なイメージを作ること、見せることに含まれる倫理的な課題に自覚的になり、イメージがこれまでにない速度で氾濫する社会でのオルタナティヴな表現方法を模索している。主に戦争、紛争、移民、抵抗といった問題を扱い、これまで、戦争で破壊された街や、そこで採集したオブジェクトをモチーフに、映像、3Dアニメーション、彫刻、インスタレーションを制作、発表してきた。

[主な展示・活動歴]
2018 ‘Hauntology’, ONONO, ロッテルダム, オランダ
2017 ‘DIY Survival Kit’, Corridor Project Space, アムステルダム, オランダ
2017 ‘What Happens to the Geographical Borders When the Lands Itself Moves’, Blitz, ヴァレッタ, マルタ
2017 ‘Recontres Internationales Paris/Berlin’, Haus der Kulturen der Welt, ベルリン, ドイツ
2017 Portfolio Review Award, デュッセルドルフ, ドイツ

選考理由
「現実をどう表現するか?そもそも私たちはこの視覚文化の時代にあって、現実について語ることができるのか?」というジャネルの問題意識は、戦地に取材したフォト・ジャーナリストとしてのキャリアから導き出されたもので、切実さを感じるものだった。アーカスプロジェクトでは、13世紀にペルシャの学者によって書かれた本に出てくるモンスターと日本の妖怪を調査し、アバターをつくりアニメーション作品を制作する。“他者”の表象と語りの主体をめぐる考察が異文化の中でどのような成果を生み出すのか、大きな期待とともに注目したい。
 

オープンスタジオによせて
爆撃で破壊された街、住むところを失い押し寄せる難民、涙にくれる人々…。そういった現実を切り取った写真は、悲惨であれば悲惨であるほど多くの読者を引きつけます。フォト・ジャーナリストだったジハド・ジャネルは、写真による報道が宿命として持つある種のエンターテイメント性に戸惑いを感じ、彼が伝えたいことを表現する“別の方法”を探してきました。
ジャネルが日本で新たに取り組んだのは、メソポタミアのモンスターと日本の伝統的な妖怪を混ぜ合わせる試みでした。モンスターや妖怪は「他者」、つまり「外からやってきて、理解が不能な者」の表象と考えられます。長い歴史の中に育まれたそのような形象を吟味し咀嚼することを通して、ジャネルは現代を生きる1人の人間として感じてきたリアリティを伝えようとします。
オープンスタジオでは、妖怪についてのフィクションと現実が入り混じったストーリーを書き、それを読み上げるレクチャー・パフォーマンスと、13世紀メソポタミアのモンスターと日本の伝統的な妖怪の図像が混合されたキャラクターが苦しみの声をあげたり、歌ったりする3Dアニメーションを上映します。その表現の“翻訳”が持つ可能性を探るジャネルの挑戦は、しばしば無慈悲な現実に直面する私たち自身に向けた、励ましにも感じられます。

金澤 韻

これまでの作品画像を見る
活動の様子画像を見る
オープンスタジオ画像を見る

2018

ジハド・ジャネル〈トルコ〉

エリカ・セルジ〈米国〉

イリカ・ファン・ローン〈オランダ〉